PROJECT プロジェクトストーリー

PROJECT-01 これまでにない光を
この手で。
世界初ブレードスキャン®
ADB開発プロジェクト

2019年、世界初のヘッドランプが登場し、業界が驚きの声を上げました。KOITOが開発した「ブレードスキャン®ADB」です。その特徴は、ハイビームの光を緻密に、自動でコントロールできること。しかも、一般的に配光性能を高めるには光源、つまりLEDの数を多くするのが主流の中、使用したLEDはたったの12個でした。業界の常識を覆すような今回の開発はいかにして進められたのか。その軌跡をたどります。

MEMBER

HIDETADA
TANAKA

田中秀忠|研究所

KENTARO
MURAKAMI

村上健太郎|電子技術部

KAZUTOSHI
SAKURAI

櫻井一利|製品開発部

NAOKI
TAKII

滝井直樹|電子技術部

※プロジェクト当時の部署となります。

EPISODE-01

はじまりは、
交通安全への願いから。

「夜間の交通事故の多くが、歩行者の道路横断中に起きている。歩行者をもっと早く発見するため、夜道を遠くまで照らすことができるハイビームをもっとみんなに使ってもらえたら…」今回登場する4名のリーダー的存在だった、研究所の山村のそんな想いがこのプロジェクトのはじまりでした。山村はハイビームの重要性を感じ、研究所でその開発に着手。そして2012年に実用化されたのが、シェード方式の「配光可変ヘッドランプ(ADB)」でした。これはハイビームで走行中に先行車や対向車を検知すると、その自動車のみを遮光し、相手のドライバーに眩しさを与えないというもの。しかし、ロービームへ切り替える手間は解消された一方、遮光範囲が細かく制御できず、高コストで、採用されたのは主に高級車に留まりました。

ADBをもっと多くの自動車に搭載させ、交通事故低減に貢献するには、より細かな配光制御と低コストを同時に実現する必要がありました。

そのためにはどうすればいいのか。悩む山村が声をかけたのは部下であった田中でした。二人はADBの研究を続け、ひとつの方式を見出します。それが世界初となる「ブレードスキャン®方式」でした。「LEDの光を高速回転するミラーブレードに当て、左右に動かす(=スキャンする)ことで、光の残像をつくり、照射する仕組みです。これであれば少ないLEDで高精細な配光が実現できます」と話す山村と田中。この方式のカギとなる最適なミラーの形状を突き止めたときには、「これならいける」と確信したと言います。しかし、研究所での開発はここからが本番。この方式が高い機能を発揮し、かつ安全な技術なのかを確認するために、試作したランプを実際に自動車に搭載し走行させるなどの検証作業を重ねました。「スキャン方式は、世界でまだだれも試したことのない技術。雨や雪の日の見え方、人体に影響がないものなのか、あらゆることを想定して検証しました。製品化に値する技術なのか見極めるわけですから、責任も重大でした」と田中は当時を振り返ります。

EPISODE-02

絶対、諦めない。
理想の配光はその先にある。

今回の開発で目指したのは、前方にいる複数台の車両をそれぞれ遮光し、対向車と先行車の間もハイビームを照射するような緻密な光のコントロール。しかし、配光制御を少しでも間違えれば、前走車のドライバーに光が当たり、事故にもつながりかねません。ブレードスキャン®ADBの成功を左右するとも言える、この配光制御のためのソフトウェア開発を任されたのが、電子技術部の村上でした。課題となったのはミラーの回転にあわせて、LEDの点灯・消灯をいかに制御し、光を操るか。ソフトウェア開発メンバーは6名いましたが、チーム内で開発が行き詰ったときには、大部屋会議と呼ばれる部署の垣根を超えて話し合う場で相談し、解決策を見出していったと言います。そして、わずか12個のLEDで、LED300個分に相当する高精細な配光制御を実現することに成功。これにより、ブレードスキャン®ADBの量産化に向けた動きが加速します。

その頃、製品開発部では櫻井を中心とした、ブレードスキャン®ADBの量産開発チームが編成されました。櫻井にとって、もともと興味があった開発。新しい任務にモチベーションが上がったものの、研究所から上がってきた試作品は市場に出せる性能に達しておらず、部品仕様の改善など、量産するまでにやることが山ほどありました。特に難航したのが、配光範囲や明るさなどについて、お客様の要求するスペックに応えるということであったと言います。「チームで解決案を出し合い、時には研究所や実験部も巻き込みながら、性能改善を繰り返しました。 “まだ諦めないぞ”と口走ったこともありましたね」と当時の苦労を語る櫻井。この粘り強さとチームワークがお客様の期待に応える製品を生み、量産化への道筋をつくったのでしょう。

EPISODE-03

光学×メカが生むランプで、
世界に驚きを。

KOITOの開発の特徴は、いくつもの部署やチームが連携して、完成を目指す工程にあると言えます。ブレードスキャン®ADBの開発にあたっては、光学系である配光設計チームに加え、滝井が所属するメカ系とも呼ばれる、駆動装置などを開発する機構システム部が大きな役割を果たしました。ブレードスキャン®ADBには、ミラーを毎分6000回転という高速で回し続けるモーターが必須。しかし研究所がモーターを試作したところ、1週間も持たずに停止してしまうという結果に。そこで、滝井に相談が持ちかけられたのでした。モーターに求められたのは、高耐熱、高速回転、高耐久に加えて、低コストであること。「従来のADBにモーターが追加された分、高いだろうとは言われたくない」、高難度の開発にプレッシャーを感じながらも、滝井自らが協力メーカーに入り込んでモーターを完成させ、工場での量産体制も構築していきました。

こうして、モーターを組み合わせて、配光を制御するというKOITO独自の技術が生んだ「ブレードスキャン®ADB」が完成の日を迎えます。市場投入の前に世界の自動車メーカーにPRしたところ、その反響はすさまじく、プレゼンを担当した櫻井は大きな手応えを感じたと言います。

夜間走行の安全に寄与するブレードスキャン®ADBの開発は、国内外から高い評価を得て、「CES2020 INNOVATION AWARDS」、自動車技術会「技術開発賞」、超モノづくり部品大賞「日本力(にっぽんぶらんど)賞」などを受賞し、多くの分野から評価されました。

完成までの日々を振り返り、プロジェクトメンバーが口にしたのは、世界初のだれも実現してないことをやり遂げた達成感。そして、KOITOにいるスペシャリストがタッグを組んだからこそ乗り越えられたという、チームとしての絆の強さでした。現在、メンバーはそれぞれ新たなテーマのもと、開発に取り組んでいます。このプロジェクトでの経験が、また世界をあっと言わせるような製品の誕生へとつながっていくはずです。

そして
次世代モビリティ社会へ

ブレードスキャン®ADBの開発は、もちろんここに登場したメンバーだけで成し遂げたものではありません。開発が本格的に始まってから、約10年という時間が経過する中で、多くの社員の知恵や経験、想いが積み重なり、ようやくカタチとなりました。社会が変わり、クルマが変わっていくなら、KOITOが生む光もまた進化していかなければならない。多くの人に安全を届けるために、KOITOの挑戦は続いていきます。

MESSAGE

  • 自分一人では実現できないことも、異なるスキル、アイデアを持っている人たちが集まって開発すればきっと叶うはず。今まで世界に無かったものを世に送り出す、モノづくりの楽しさを体感してほしいです。

  • ランプメーカーだからといって、光源とレンズの技術者だけで成り立っているわけではありません。新製品開発には、さまざまな分野の専門家が必要です。柔軟な発想ができる幅広い分野の方々にぜひ入社していただき、ともに新たな製品を作り上げていきたいです。

  • 決して楽ではありませんが、乗り越えた先に楽しみが待っている、そんなやりがいのある仕事です。社会人になってからはコミュニケーション能力が財産となります。ぜひ学生のうちにさまざまな人と積極的に関わり、その能力を磨いてください。

  • 今回のプロジェクトは、部署を超えた密接な意見交換がなければ実現しなかったと思っています。KOITOは横のつながりが強みの会社。入社後は遠慮せず、さまざまな部署とコミュニケーションを図ってください。

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